博士後期課程のトドメ
博士課程進学というトピックでインターネット検索すると、ポスドク問題や海外進出の重要性、メリットにメリットなど、色々な情報がでてきます。中でも、大学の先生方が学生の将来を慮って熱く進学を勧めているHPが多々あります。私は血迷いかけましたが、幸運にも博士後期課程に進学せず、一切、有機とは異なる道で就職して生きています。
一方で、Ph.Dを習得した先輩方や同期、その道を志す後輩を知っています。就職活動を潰されて自ら進学した後輩、夢を語ってアカデミックの世界に進んだ先輩、アカデミックにポストを得たにも関わらず結局民間企業に就職して職を転々としている方まで、数十人以上のPh.Dの人生の一部を同じ研究室や大学で見聞きし、中には凄惨な事例まで…
博士後期課程について私見を述べていきたいと思います。貴方が進学されるとき、雑音の一つとして読み飛ばしてください。この程度で進学を怯むのであれば、私は文章を書いた甲斐がありました。ぜひ進学を留めておくことを強くオススメします。
進路について
有機分野で博士後期課程に進学し3年以内に学位を取得できた方で、路頭に迷った方を知らないです。論文を4報揃えきれず、学位が取得できなくても一般企業に就職された方もいます。それだけ、有機分野のPh.Dというより、博士後期課程のコースは他の分野と比べて汎用性が高いようです。しかし、全員が3年間の投資に見合う給与が得られているかは、また別の問題です…
あなたの夢は何ですか?
あなたの夢は、立派な研究者になることや、世の中の役に立つ発明をすることですか?私は、『一度きりしかない自分の人生を過ごせてよかった』という生き方をすることです。具体的に上げますと、とびきりの贅沢をしたいわけではありません。夜は気持ちよく寝つき、朝は心地よく目を覚まし、一日6時間睡眠を確保して、朝昼晩、3食ゆっくりご飯を食べて、体を動かし、自分の稼ぎで生きていくこと。
今、研究室生活を終えて幾分もの年が経ちましたが、少しずつ後遺症が薄れ夢に近い生活を送れるようになってきました。
決して、プライドや成果の為に後輩をコマ扱いしたり、退学させたり、定期的に内部告発があり、殺伐とした環境での厳しい競争と、その裏で弱いヒトが通院したり、電車に飛び降りたりするような後輩がいる環境で、切磋琢磨することが私の幸せ、生物としての幸せにつながらないと判断したため、化学を捨てました。
化学は好きでした。
それだけでは夢を負うのに不十分だったのです。
なぜ夢に挑戦することが尊いこととされるのか?
少年漫画を読んでいると、夢や希望に友情、正義、たくさん出てきますよね?その理由は2つです。一つは、大人になる上で、現実を見据えて夢や希望に友情を捨ててきたからです。現実で得られないものは空想で補給するしかないのです。もう一つは、管理する側にとって都合が良いからです。夢や希望や社会的意義を持っている人間は、一般的にサイアクな条件でも喜んで、自らの人生を捧げて働いてくれます。これほど扱いやすい人間はいません。ハムスターは、回し車を自ら喜んで回しますが、外から無理やり回すとストレスでいずれ死ぬそうです。これと同じです。
今後の人生はどうなるのか?
教育と人生の幸福度について調べた研究があります。M. Lahoudの記事『Happiness is anything but
academic, study finds』をご覧ください。
要約すると、高学歴で博士後期課程取得者は、人生に満足していない人が多い。比べて、人生に満足している人は高卒に多く、ついで、大卒、修士卒の順に多い、となります。
(ttp://www.watoday.com.au/lifestyle/life/happiness-is-anything-but-academic-study-finds-20110728-1i229)
当然の結果です。
博士後期課程の3年間は楽しいでしょう。『知識量が圧倒的に増えます。』『周りの世界が広がります。』『サプライズが出てきて研究が楽しくなっていきます。』『夢に向かって邁進していく自分を見ていくのは幸せです』博士には似たように純真な人が多く、本当に眩しいですね。
では、その先に何がありますか?
少なくとも実験化学は、趣味で続けることがまずできません。読み親しんできた論文も触れることができなくなります。9年間、自分の人生を捧げてきた化学と袂を分たなければならないのです。夢から覚めなければならないのです。その時、あなたの人生に何が残りますか?その喪失感に耐えられますか?
化学企業に研究職として就職しても、企業の都合でゼロベースで研究を再スタートしなければならないのです。知識に装置の扱い方に社内の理不尽なルールと人間関係、全てゼロからです。そして、発見ではなくタスクをこなす事が重要で、仕事として必要な事項しか研究させてもらえないのです。博士課程で一度覚えた研究と発見の快楽を手放すことは、相当な苦痛となるようです。
『縛られない為には金』
地獄の沙汰も金しだい、は博士にも当てはまります。好きなことを続けるためには、衣食住と学費を収め続ける必要があります。奨学金という名の借金を抱えて、研究を続けることは非常に困難です。なんだかんだ言って、保証人に迷惑をかける事に躊躇してしまいます。数百万の奨学金を返済するためには、給与の多い企業に就職するしかなくなるのです。就職の難易度が大きく上がります。その覚悟がありますか?
夢を追いかける為の金
もし、縛られない博士として、夢を追い続けたいのであれば、お金の問題は必ず直面します。学会で、有名な先生の講演中に、ある分野で著名な先生の後ろに座ったら、講義そっちのけで、携帯から株取引にて、とんでもない額を運用されておりました。当時は、違和感しか浮かびませんでした。いま思い返せば、ポストに固執することなく立派な研究をするには、安定した副収入が必要なのだなぁと、ガッテン、です。
就職できたら安泰か?
仮に、PH.Dで就職すると、修士卒の基本給+3年程度の給与しかもらえない場合が多い気がします。基本給は就職しなければわからない部分が大きく時の運です。博士だろうが、労働者の一人、組織の中の一人であることに変わりません。さらには、博士は組織の中でマイノリティーであり、極めて待遇改善に鈍感な集団である印象をうけます。
縛られない博士のなるためには
やりたい事をやり続けるためにはどうしたらよいのか、研究に日夜励む暇があったら、一週間の内、1日位冷静に考えてみてください。ギャンブルを本業にして学費と生活費を稼ぎ、趣味(ポスドク)をされているかたもいました。
金を稼ぐために博士になるのではなく、他で稼いで研究にお金を回す
優秀な(はずの)博士が食いっぱぐれるのは世間が悪いのではなくて、方向性を完全に間違えているからだと思うのです。かじれる親のすねを探すなり、ヒモを探すなり、玉の輿を探すなり、学部時代に貯蓄するにしろ、夢を追い続ける為には、現実的な金策を考えなくてはなりません。
金の問題を疎かにしていては、自分だけでなく周囲も不幸にします。
人生は長いです。平均寿命は約90歳。定年は60歳。博士後期課程を終えると約30歳ですから、残り少ない労働年齢30年間で、奨学金を返しつつ、60年分の税金と生活費を稼がなくてはいけません。学生時代9年間は(免除で)年金を払っていないですから、将来の受取額は大きく下がります。3年の夢の後始末はきちんとできますか?
さあ、日本の為に博士後期課程に進学してください!
(続く)
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